IPF(特発性肺線維症)ってどんな病気?
間質に線維化がおこる病気を「肺線維症[はいせんいしょう]」とよび、原因が不明なもののなかで最も多いのが特発性肺線維症[とくはつせいはいせんいしょう]※1、IPF(アイピーエフ)です※2。
- ※1: 特発性とは原因が特定できないという意味です。
- ※2: 診断に際しては、高分解能CT検査あるいは肺生検で通常型間質性肺炎 【UIP(ユーアイピー)】のパターンを確認し確定診断されます。
IPFの病気のしくみ
健康な肺では、たとえ肺胞に傷がついても、その傷は修復され、スムーズなガス交換が維持されます。
しかし、肺胞に長期にわたって、くりかえし傷がつくと、その傷を治そうとする働きによって、大量のコラーゲン線維などが肺胞の壁(間質)に蓄積されます。その結果、酸素や二酸化炭素の通り道である間質が厚く、硬くなる線維化がおこると考えられています。
間質に線維化がおこると、肺が十分にふくらまなくなり、ガス交換がうまくできずに、酸素が不足し息苦しくなります。
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もっと知りたい! 線維化のプロセス
健康な肺では、肺胞に傷がつくと、傷を修復する細胞※が集まってきて、コラーゲンなどを作り出し、その傷を修復します。しかし、肺胞に長期にわたってくりかえし傷がつくと、過剰な修復反応によりコラーゲンなどが蓄積し、肺胞の壁(間質)が厚く、硬くなり、肺の線維化がおこります。
※線維芽細胞[せんいがさいぼう]や
筋線維芽細胞[きんせんいがさいぼう]など。
肺の線維化がおこる様子
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こうした肺の線維化のプロセスには、「増殖因子」や「受容体」とよばれるさまざまなタンパク質が関与しています。線維化に関連する増殖因子が、傷を修復する細胞の受容体にくっつくと、「傷口に集まれ」、「コラーゲンを作れ」などといった、さまざまなシグナル(指令)のスイッチが入り、線維化がひきおこされると考えられています。
増殖因子と受容体によるシグナル(指令)の伝達
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間質性肺炎[かんしつせいはいえん]と IPF
肺の間質におこる炎症は間質性肺炎とよばれ、感染症による肺炎(主に細菌などが原因となっておこる肺炎)とは区別されています。
また、間質性肺炎のなかでも原因がはっきりと特定できないものを特発性間質性肺炎[とくはつせいかんしつせいはいえん]といい、しばしば肺の線維化(肺線維症)をともないます。
IPFは特発性間質性肺炎の一種で、特発性間質性肺炎のなかで最も頻度が高い病気であることが知られています。
もっと知りたい! 特発性間質性肺炎の種類
IPFは、国の指定難病である特発性間質性肺炎の1つです。 特発性間質性肺炎には、IPFのほかにさまざまな種類があります。 特発性間質性肺炎は疾患によって経過や治療方針が異なることから、治療法を決定する際には、専門医が適切な診断を行い、特発性間質性肺炎のどの疾患であるかを見分ける必要があります。そのために、高分解能CT、肺生検、気管支肺胞洗浄などの検査を行い、IPFとその他の特発性間質性肺炎を判別します。
特発性間質性肺炎の主な種類
- 特発性肺線維症(IPF)
- 特発性非特異性間質性肺炎(INSIP)
- 呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)
- 剥離性間質性肺炎(DIP)
- 特発性器質化肺炎(COP)
- 急性間質性肺炎(AIP)
IPFの発症率
IPFの患者数は、日本ではおよそ1万数千人と推測されています。女性よりも男性に多く、加齢とともに発症する割合が増加します。
発症の原因はわかっていませんが、加齢のほか、喫煙や感染症、生活環境などのさまざまな要因が関係すると考えられています。
IPFの発症率
Natsuizaka M, et al. Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 773-779.
IPFの病気の進行と経過
IPFは間質の線維化が徐々に悪化していく病気です。
IPFの病気の進行のスピードと経過は、患者さんそれぞれで異なります。
数年の単位で徐々に病気が進行する方もいれば、急速に進行する方もいます。また、原因はよくわかっていませんが、数日から1ヵ月の間に突然、息苦しくなり、呼吸の機能が急激に悪化する場合があります。これを急性増悪[きゅうせいぞうあく]とよびます。
IPFでは、呼吸の機能を維持し、悪化させないことが大切です。
そのため、定期的に検査をしながら呼吸の状態を確認し、悪化がみられたら速やかに治療を開始します。
IPF患者さんの臨床経過
もっと知りたい! IPFの急性増悪
IPFでは、原因は不明ですが、呼吸の機能が急激に悪化することがあります。これを「急性増悪」とよびます。
急性増悪を発症すると、呼吸困難が強くなったり、咳や発熱が認められたりすることがあります。 急性増悪は症状が良くなっても再び発症することが少なくなく、IPF患者さんの死亡原因の約40%を占めるといわれています。急性増悪の発症頻度は年間5~15%程度であり、努力肺活量(最大限努力して一気にはき出したときの空気の量)が低い方などは、急性増悪を発症しやすいと考えられています。
IPFの進行にともなって急性増悪の発症頻度も高くなることから、IPF自体を進行させないことが急性増悪のリスク低下につながると考えられています。
IPF患者さんの死亡原因
対象:北海道において2003~2007年に特定疾患医療受給者として新規受理されたIPF患者553例
方法:2009年、2010年、2011年のそれぞれ9月に各医療機関に予後調査票を郵送し、その回答と新規登録時の臨床調査個人票の記載事項を照合してIPFの有病率、発症率、死因、予後因子、急性増悪死亡への関連因子を解析した。
Natsuizaka M, et al. Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 773-779.
急性増悪発症時には、ステロイドや免疫抑制剤とよばれるおくすりによる治療が行われることがありますが、現時点で、急性増悪に対する有効な治療法は確立されていません。
そのため、IPFの経過中は、急性増悪を予防することが重要です。IPFの急性増悪は風邪やインフルエンザが引きがねになることがありますので、うがいや手洗い、予防接種などを行って、風邪やインフルエンザにかからないように気を付けましょう。
IPFの合併症と管理
IPFでは次のような合併症がおこることがあります。
IPFの主な合併症
肺がん
気胸、 ききょう縦隔気腫じゅうかくきしゅ
呼吸不全、肺高血圧、右心不全
感染症
胃食道逆流いしょくどうぎゃくりゅう
IPFの管理においては、IPFそのものの治療だけでなく、さまざまな合併症への対策が必要となる場合があります。
合併症を早期に発見し、適切な対策を行うためにも、定期的に病院を受診して、経過を観察する必要があります。
合併症については主治医にご相談ください。
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2023年10月作成